今回は、優秀な講師とそうでない講師の差について改めて紹介します。
一番の差は、優秀な講師は物事をマクロで捉えた上で、生徒にはミクロのことを同時に教えることができるということです。
ここでは、教え方のテクニックという話以前に、そのフィールドに対する知識力が重要です。
当然と言えば当然なのですが、本当にその分野の専門家であることが求められるのです。
最新の事情にも詳しく、もちろん、試験の出題傾向についてもしっかりとした分析がなされていることが必要です。
その上で、教えるテクニックが大切になるわけです。
受験勉強だけでなく、授業というのは本来、本当に楽しく、わくわくするものだと考えています。
私は一講師として生物を受け持っていますが、生物学のおもしろさを広めたいから講師をしているのです。
「血管は穴だらけって知ってる?別に欠陥じゃないんだよ。それでなぜ漏れないと思う?」
なぜでしょうか。
赤血球はその穴よりも大きいから漏れません。
だけど、血液の九割は水だから、実は始終血管から漏れているのです。
そんなふうに話していけば、多くの生徒が興味を持ってくれるのです。
授業というのは、そうやって生徒を引き付け、それから大事なことを覚えてもらう、理解してもらうものなのです。
ただ暗記するだけでは人は飽きてしまう。
全体像がわからず、応用力も身につかないから、枝葉の問題が出た時に答えることができないのです。
たとえば、私の専門である生物の話を少し、続けさせてもらいます。
人間の身体には染色体があります。染色体は23対で46本、存在しています。人間の身体は約60兆個の細胞でできていますが、その一個一個の細胞の核の中に、その染色体が46本ずつ入っています。
細胞が分裂すると、染色体も分裂して同じ染色体ができます。
たとえば怪我をして、1000個の細胞がちぎれてしまうと、細胞分裂をして、失った1000個の細胞がまた出来上がります。
そこで、染色体の中にあるデオキシリボ核酸(DNA)から指令が来て、細胞分裂は止まります。
そうした仕組みがDNAには刻まれています。
その命令が滞って、異常な細胞分裂を繰り返して暴走するのがガンです。
そうなると、悪性か良性かは別にして、腫瘍ができてしまいます。
この時に、教科書どおりに教えるとなれば、細胞分裂は、まず細胞の中にある核が核分裂し、その後で細胞質が分裂して、2つに分かれるという話で終わりなのです。
しかし、それでは全体像がわからないから応用問題が解けません。
そこでベテランの先生はもっと根源的な話をするわけです。
核分裂が起こる時には、有糸分裂が起こり、染色体が現れます。
その後で、一般的には体細胞分裂が起こって、分裂前と同じ細胞ができます。
また生殖細胞に関しては、減数分裂といって、染色体数が半分になるように分裂するのです。
ちなみに、遺伝子とは染色体に含まれるDNAという分子を指します。
このDNAの分子構造の中に、生物をつくるすべての指令が含まれています。
人のDNA構造は誰でも99.9%同じです。たった残り0.1%で個性や容姿、人種までが変わってくるのです。
男性と女性も99.9%同じです。
さて、なぜ染色体は減数分裂をするのでしょうか。
23対で46本と言いましたが、曲がった染色体は曲がった染色体、長い染色体は同じ長さの染色体と、全く同じペアが存在しています。
これは両親からそれぞれ受け継がれるために、対なのです。
生物というものは、種(species)ごとに染色体の数が決まっています。
人間の場合は46本です。この数が異なれば、その種は生まれません。
だから細胞分裂する際に、男性、女性とも、減数分裂をしないと、46本の2倍、92本の染色体になってしまい、人間という種が生まれることはできません。
男と女がそれぞれ精子と卵子に23本ずつの染色体を持たせて送り出し、それが結合する、つまり受精することで元の46本に戻すメカニズムなのです。
これは根源的な取り決めです。
人間だけではありません。
こうした根源的な理解ができていれば、進化の話にもついていけます。
あるいは AA × aa →Aa を基本とする遺伝子計算についてもわかるようになります。
Aとaは、優性遺伝子と劣性遺伝子です。
こうした話が横糸なのです。
こうした横糸の中に、実際に試験問題に出題される変化球も含まれているものなのです。