僭越ながら、私が学生のご両親に望むことは「せめて早い段階から自立心を持たせてほしい」ということです。
これは独立心と言い換えてもいいと思います。
自立心を持てば、自分に自信が持てる。
確かな目標を持ち、アイデンティティを大事に生きていくことができる。
キレるよりもむしろ、鷹揚になることができると思います。
そうした自立心は、子供が生きていく上で、何よりも大切なものでしょう。
受験時期だけでなく、時に応じて孤独に耐え、修羅場を生きていくためにも、あるいは人にやさしくなるためにも、自立心はなくてはならないものだと思います。
医者には最も必要なものです。
受験に関しても、勉強のテクニックや方法論は、後から身につけることができます。
それよりも何よりも必要なことは、ここまでにも述べてきたように、よりよい生活習慣であり、勉強をするという癖です。
そしてそうした、いわば「覚悟」のベースになるものが、その先の目標に対する心からのコミットメントであり、自立心というものなのです。
少しくらい辛いことがあっても、逃げない。
自分の殻に閉じこもらない。
家庭という場所に逃げ帰らないだけの強さ、胆力の源です。
ところが、子供がいくつになっても口を出す、指図をし、そして守ってしまう親が多いのです。
大学にストレートで受験する18歳に限りません。
医学部受験の場合は多浪が多いですから、それこそ30歳近い浪人生もいるわけです。
それでも過保護の親は、何も変わっていないのです。
プレッシャーをかける一方で、青天井にお金を渡し、部屋の掃除をし、あれこれと世話を焼くのです。
それではいつまで経っても、子供は自立心を養うことがありません。
勘違いも少なくありません。
つまり、家を出てしまうとか、親に逆らう、反発をするというだけで、自立心や独立心がついたと思ってしまう親も少なくないということです。
それは違います。
本当の独立心は反発心からは生まれません。
一人暮らしと独立心も、必ずしも一致しません。
さらに、願わくば、両親の仲がいいことを望みます。
仲がよければ、当然、協力して、うまく役割分担をして子供の教育に一役買えるはずであるし、子供の精神衛生上も当然、それはいいことだからです。
そして父親と子供の関係については、特に息子と父親の関係については、とにかくしゃべることです。意思の疎通をすることです。
ここまでにも説明してきたように、今は、あまりに先生、大人の男性を避ける男子生徒が多いのです。
これは、家庭において、父親との会話がほとんど成立していないことを表しています。
慣れがないのです。
顔を合わせれば文句を言われる。
気楽な意味でも、真面目な意味でも会話にならない。
だから、子供は文句を言われたくないから逃げる。
怒られたくないから嘘をつく。
これは必然の結果なのです。
特に、その子の性格が悪いということではないのです。
それを子供のせいにしてはいけないのです。
そして、そこで身についてしまったコンプレックス。
それ故の自己防衛の姿勢は、学校や予備校でも同じです。
そして、母親が過保護な場合は、外でも女性には気を許して近づいていきます。
各学生の予備校での態度を見ていると、どのような家庭なのかがわかるようになります。
いいも悪いも、昔以上に、子供たちは両親、そして両親が作り上げている家庭の影響を受けているのです。
従順な場合も、反発していても、それは同じです。
意思の疎通と言いましたが、こと受験に関して言うのであれば、父親が自分の意見を押し付けるのではなく、むしろ、子供の知らない情報を教えてあげてほしいのです。
たとえば職業に関して、心のなかで「医者になってほしい」と考えるだけでなく、あるいは何の説明もなく、「お前は医者になるんだ」などと押し付けるのではなく、テレビを観ていてなど、事あるごとに、サラリーマンを馬鹿にするような態度を取るのではなく、世の中にはどのような職業があって、それぞれどのようなやりがいがあるのか。
そうしたなかで、医者というものはどのような存在なのか。
そうした世の中の仕組みや職業意識について説明できる父親であってほしいのです。
息子さんと膝を突き合わせて、話し合ってほしいのです。
彼の幼い意見も真摯に聞いてほしいのです。
人をバカにするのではなく、尊敬する。
そして自分についても決して卑下せず、堂々と生きることができる大人への道を歩む。
そのきっかけを与えてあげてほしいのです。
そして、大いに未来について語ってもらいたいのです。
ところがそうする父親はどうもあまり多くないようです。
しかも、「師」であるべき教師も、そうしたことを教えようとはしない。
そのような話はよく大学の講義でもしました。
すると驚くことに多くの学生達の目が輝くのです。
彼らはそうした情報や付き合いに飢えているのです。
とりもなおさずそこが、自立への道であり、合格への第一歩なのです。