医学部受験について知る

医学部が“文系学部”である理由

医学部は単純に受験科目でいうと英語と数学、そして化学、物理、生物のうち理科2科目なので、4科目のうち理系3科目、非理系1科目になり、割合でいうと3対1だから理系だと思われがちですが、私は、医学部は理系ではないと認識しています。

「古代医学」で勉強することですが、医学は最古の学問といわれています。
しかし、医療の体系は同時に宗教の体系なのです。
かつては宗教者が医療にも従事していました。
現代においても、現代医学がもう治せないと断念した末期医療の現場では、痛みのコントロールと精神の安息が重要なテーマになります。
後者の主たる担い手は宗教者です。
ただその段階でも医者は重要な存在であり、直接関与しますから、医者は一方では薬品知識やさまざまな手技を身につけた科学者であると同時に、人間の死に対する不安とか、家族の喪失感などについても十分熟知している、そして宗教者のごとくケアのできる、そうした人間的素養を求められているわけです。
そのため人間に関心のない人は、決していい医者にならないだろうと考えられるわけです。

私たちは、単に医学部に入学するだけでなく、将来的にいい医者になってもらいたいわけですから、医学についての基本的な知識だけでなく、生命や死、死生観、倫理、道徳にかかわることに関しても造詣を深めてもらいたいのです。

たとえば死生観は国や民族によって違います。
日本では肉体と精神が分離しませんが、欧米では物心二元論で、魂が外に出ると肉体は物質化します。
だからこそ、脳死による臓器提供者がアメリカでは、心臓移植に限っても毎年2万~3万ケースもあるわけです。
日本では、それほど増えません。
死生観が違うからです。
そうであるならば、移植に軸足を置くのではなく、臓器クローンなどの技術にさらに力を入れるべきではないかといった意識を持ってほしいわけです。

たとえば英語の授業を通じて、そういう幅広い教育を行うのが、TMPS医学館の教育なのです。
抽象的に議論するのではなく、英文を通して、筆者のものの見方、価値観を通して考え、賛成するにしても反対するにしても、「あなたはこの問題についてどう考えますか」と問いかけます。
そんなふうに、立体的に教えていきたいのです。

さらに言えば、医療系情報だけでは医学は成り立ちません。
そもそも患者の肉体を治しながら、ストレスを含めてその精神を見ていかないことには、病気は治りません。
人間の病の原因の6~7割は精神ですから、人間の精神についての知識なしに病は診られないと思います。
そこで、私は、自然観や動物観、あるいは真・善・美といったことも大切にしています。
真・善・美の真は真理を意味します。
真理というのは理性です。
そして善が意思で、美が情念、感情です。
その下に本能があります。
そこから導かれるのが多元的人間観ですが、その多元的人間観を持って、患者を治療してほしいと考えるわけです。

また、人間はなかなか死を受け入れられません。
なぜならば死は絶対無、つまり、全く未知の世界だからです。
その不安感はもともと動物の持っている身体の保存機能という本能から生まれたものなのです。

また、人間というのは基本的に、社会内存在です。
人間は個として、つまり単体として自立できない、あくまでも社会の関係の束の中でしか生きていけない存在です。
そういう面もわかってほしい。
そうやって多角度から人間観というものを深めてほしいのです。

あるいは自然観や動物観、つまり自然の中の人間の本来のあり方というものについても考えてもらいたい。
自然観では、自然を加工するのではなく、自然を守ることが一番大事です。
実は本当に医者が治せる病気というのは、病気全体の10%に満たないといいます。
それはとりもなおさず、病院に行かなければ治らない病気です。
残りの90%は、病院に行かなくても治るのです。
つまり風邪です。
これは病院に行かなくても治ります。
どういうことかというと、医者の最大の仕事は直接病気を治療することではなく、人間の自然治癒力を助けることなのです。
となれば、その自然治癒力が大事にもかかわらず、自然を破壊する現代科学の暴走を、医者はそのまま見ていていいのかということにもなります。
そんなところまで学習してほしいのです。

私が授業で行っているのは、単に英語の勉強ではないのです。
英語というのは語学であり、英語圏の国の国語ですから、それをツールとして、医者の仕事に還元できるさまざまな知識を蓄え、人間性を磨いていってほしいという意味を込めています。
また、こうした文章の読解を通して、思考力、問題の構成力、情報処理能力を高めていってほしいわけです。

そして、知ることの喜びを知ってほしい。
目からウロコが落ちる、そして一気に世界が広がる。
英語教材を通して、そうした体験をしてもらいたいと思っています。

こういう観点から教材を編集している予備校はほかにないと思います。
過去問題を中心に編集したような中途半端なものではありません。
あくまでも、英語を通して、多面的で立体的な知識を身につけ、スキルを磨き、優れた医者になってもらうための準備に資したいと考えているのです。
ですので、二学期では漢方、代替医療と現代医療とを組み合わせた統合医療にスポットを当てています。
現代医療に一番欠けているのは、漢方でいうところの未病の概念です。
実は医者は、病気にならないための予防が本来、一番大事な仕事なのだという話です。
漢方は基本的に病気に負けない体をつくることを目的としています。
本来は、健康ブームにおいて、医者がもっと積極的に関与し、発言していかなければいけないはずなのです。
そこで、東洋医学でいう未病と、西洋医学でいう予防はどう違うのかも見ていきます。
願いは、社会に開かれた医者になってもらうことです。

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