予備校に通う本来の目的は「カリキュラム」です。
カリキュラムは、予備校が、科目ごとに決めた時間配分のなかでこれだけのことを覚え、また理解すれば受かるというものを凝縮したノウハウです。
そのためにベースとして集団指導での授業を行います。
それで足りなければ個別指導を入れます。
それでもまだ成績が上がらない場合は(その場合が多いのですが)、ここで極力落ちこぼれを作らないように、頭にカリキュラムの内容が入ったかどうかをチェックする場を多く設けます。
端的に言えば、ミニテストや補講によって、さらに先生が強力に押し込むのです。
たとえば毎週、毎週、前回の授業で行った内容を総チェックします。
口頭で質問していきます。
それでできない場合は、私の場合は罰として、その子を走らせたりもします。
それだけ真剣なのです。
あるいはペーパーテストで1週間にたとえば数学の問題を50題、全部覚えてきてもらって、確認します。
できる子は9割以上の正答率ですが、普通の子はその時に6〜7割できれば満足してしまいます。
そんな学生は、テストだけではすまないので、職員もまたフォローします。
さらには、卒業して大学に受かっていったOBにアルバイトをしてもらって追い込みます。
そうやって何重にも包囲網を敷いているのです。
やるべきことはわかっている。
後は、それをいかにやらせるか。
勉強方法云々よりも、問題なのはむしろ集中力であり、やる気と根気なのです。
そのためには、テストで6割しかできない生徒に、その場で残りを覚えさせていくという追い込み方もします。
そうやって、とにかく頭に叩き込む手伝いをしていきます。
それでもダメな場合、それは頭の回転が悪くて覚えられないのではなく、生活習慣ができていない、勉強の癖がついていないという場合がほとんどです。
この場合は親元や裕福なマンションでの一人暮らしを止めてもらって、当校の寮代わりの部屋への入居を勧めます。
親元にいたのでは、とにかく障害、誘惑が多いのです。
医学部を受けようという学生の家庭は、多くの場合、医者の家庭で、裕福です。お金もあるし、誘惑が多い。
カリキュラムに沿った集団指導に加え、個別指導をして皆が合格してくれるならば、こんなに楽なことはないのですが、実際にはどうしてもこちらがプライベートな時間を削りに削って、学生たちに対応しなくてはいけなくなるのです。
親、特に母親の中には、過保護な親も多いので、子供を心配しすぎて、追い込むことに反対します。
その場合は、こちらに預からせてほしいと頼むのです。
そうすれば合格する可能性が確実に高くなる。
こちらも大変ではありますが、そう言って本人を説得しようとします。
しかし、その誘いから逃げる親子も少なくありません。
「そんな生活は耐えられない」と言うわけです。
それでも、12室用意している寮代わりの部屋は常に満杯です。
このマンションは、本校の隣に立地しています。
大家さんと交渉をして、寮代わりにすべて当校の学生に貸してもらうことになっています。
決して広くないワンルームです。
そこに住まわせて、基本的には部屋の中までは入りませんが、一応、すべての合鍵を持って、朝、遅刻をしないように生活管理をこちらでしています。
さらに、12部屋のうちの1部屋は共同部屋です。
一人から、多い時で5人を共同で寝泊まりさせています。
私も同居しているのです。
ここに入ってもらう学生は、かなりの問題児、要するに生活習慣が乱れた子供たちです。
彼らと一緒に私が寝泊まりをして、朝起こし、食事をさせて隣の予備校に登校させるのです。
これを始めてしまったおかげで、私はほとんど家に帰れなくなりました。
たまに職員が代わってくれますが、ほとんどはその部屋に学生たちと一緒に寝泊まりしています。
生活習慣を根本から正すことが大切なのです。