前編で生物の例を挙げましたが、同様のことが数学にしても、英語にしても、他の教科であっても言えるのです。
つまり、全体を勉強していれば、総合力によって、かなりの範囲で正しい解答の推測ができるようになるわけです。
ここは勉強をやっていなければわからない。
いろいろなところを勉強して、初めて答えが推測できてくるものですが、そうした視点にはなかなか立てるものではありません。
それが勉強を一通り全部やらないで、局部的に完璧にしていこうとすれば、完璧にできるどころか途中で止まってしまうので、当然、総合力もつかなければ、実力もついてきません。
そして、いつまで経ってもそのことに気がつかない事態に陥ります。
そのためひとつを完璧にしようとするヤツほど、勉強が下手ということになるのです。
そういった多くの受験生と違って、実際の勉強で要領が良い人間は、わからなくても立ち止まらず、どんどんと先に進んでいく。
そのうち、全体を網羅して、逆にわからなかった部分も、類推してわかるようになる。
だから勝ち組になれるのです。
最終的には、勉強している内容をおもしろがれるかどうかです。
知識欲が生まれないと、系統立てて理解することができません。
全体を通して初めて物の見方も答えも見えてくるということなのです。
そのことを体得していないと、途中で止まってしまう。
止まってしまった人は大損をする。
途中で止まらない受験生が強いということを言いたいのです。
そのことに気がつかない。
勉強が続かないから、そうした因果関係がわからない。
ひとつのことがわかれば、類型問題は全部できると思ってしまう。
それは、大きな勘違いです。
自分が覚えている断片的なところだけで解こうとするからわからなくなり、嫌になって止まってしまったり、どう考えていいかわからなくなるのです。
だから、今はわからないのだからと、自分に言い聞かせて、飛ばすのが一番なのです。
そのことを早くわかってほしいのです。
何問か重ねて問題を解いていった結果、わかってくる問題というものもあります。
教科書や参考書の、章をまたいだ他のことがわかってくるから、理解が後からついてくるという問題も多いのです。
前述の問題もそうですが、もうひとつ、章をまたいだことによって理解が得られる簡単な例を挙げると、
呼吸では(a)解糖系、(b)クエン酸回路、(c)電子伝達系と三カ所に分けることができますが、酸素が必要な場所はどこでしょうか。また、酸素を消費するのはいずれの場所でしょうか。囲み枠b
これは、センター試験で出題された問題です。
この問題を読んだとき、進化の勉強を思い出さなくてはダメです。
(b)と(c)は、ミトコンドリアがやっています。
ミトコンドリアは、何から進化したのでしょうか?
リン=マーギュリスの細胞共生説によると、つまり、地球はシアノバクテリアなどによって酸素が10億年かけて、大量に形成されました。
その酸素を利用して最初に水中を遊泳していたのが好気性菌です。
今の大腸菌などですが、その好気性菌こそが浮遊単細胞と合体して、後のミトコンドリアになったのです。
それがやがて動物に進化し、また途中でミトコンドリアとシアノバクテリアが共生して葉緑体になったものが、植物になったのです。
このように考えると、最初の答えは(b)と(c)ということになります。
なぜならば酸素を使って、ミトコンドリアは動いていたわけだから。
これは裏を返せばミトコンドリアでやっていることだから、(b)と(c)は酸素が必要になるわけです。
では、酸素を消費するのはどこでしょうか?
(b)のクエン酸回路には酸素は入っていきません。
(c)の電子伝達系で水素が集まってくるから、それを尿や汗にするために酸素が必要で、つまりH2にO2が合体するのでH2O、つまり尿や汗になっていくわけです。
だから、消費している場所は(c)の電子伝達系となるわけです。
だから、局所的に覚えていなくても、別の章、ここでは進化の項の勉強とくっつければ理解できるし、単純暗記だと忘れてしまいますが、章をまたいで理屈で理解していれば、答えは自ずと出てくるのです。
(b)と(c)は、ミトコンドリア本体で、好気性菌だから酸素が必要。
酸素がないと止まってしまう。
ただし、酸素が本当に必要なのはどこかと見ていくと、電子伝達系で、私たちが吸った酸素を利用しているわけなのです。
この酸素とクエン酸回路から来る水素を合わせて小便にしているのです。
そのことも勉強していれば、ここでは(c)の電子伝導系で酸素が消費されて、酸素が必要なのはミトコンドリア全体である(b)と(c)という解答が出てくるのです。
しかし勉強量が少ないと、これがわかりません。
わかるに至らないのです。
だから、考えずに今は飛ばして先に進むヤツのほうが利口なのです。
甘ったれた環境で長く過ごしてきた学生ほど、無神経になれずに神経質な完璧主義から脱却できないものです。
だから、何度でも言います。
問題をやっていて止まったならば、そこは飛ばして先に進もうという肝っ玉の太さをもて!
私がそんな場面を見つけたら、いつも学生を叱ります。
「バカヤロー! 悩んでないで先へ進め!」「飛ばしてもいいから、とっとと一冊終わらせて持ってこい!」と叱咤激励します。
そう強く助言すると結構その通りにやってくれます。
生まれて初めて問題集を3冊制覇したという学生も現れました。
もちろん、そうは言っても、それは答えを見たり答えを写したりして、やったものです。
本当の制覇ではありません。
しかしそれが大事なのです。
やらないよりはるかにいい。
完璧主義になって止まってしまうよりは、やり通したほうが断然いいのです。
最後の1カ月、12月の勉強法も同じです。
要するに基本と中級の問題を徹底して覚え、繰り返して覚え、9割以上頭に定着させる。
上級問題などやる必要はない。
それが唯一の答えなのです。