予備校では、授業後に質問をする学生は決して少なくありません。
その大半が、偏差値59程度の、一般的に〝優等生〟とされる真面目な学生たちです。
彼らの質問の中でも困ってしまうのは、授業で今教えたばかりの内容を、改めて聞いてくるというものです。
教師としては、これは結構つらいのです。
授業で聞いてもわからなかったというならまだしも、ちゃんと聞いていないという場合が多いからです。
自分は質問をすることで努力をしている――そんな学生側の〝優等生〟としての慢心が、授業への集中力を欠かせるのではないでしょうか。
厳しいことを言うようですが、これは私が教師として長年キャリアを積む中で得た確かな考察です。
こうした傾向は、受験が山場にさしかかるほど顕著になります。
直前期における焦りや不安などが影響してくるのでしょう。
そしてより厄介なのが、分不相応なレベルの高い問題に取り組みたがるという〝優等生〟に特有の傾向です。
問題集を持ってきて、目下の授業内容より少し難度の高い問題の答え導き方を聞いてくるのです。
早く偏差値60の壁を越えたいという気持ちが強いのでしょう。
その気持ちは理解できるのですが、実はここに大きな落とし穴があります。
目下の授業内容の把握も曖昧なのに、基本問題や中級問題をわかっているつもりで、それらをないがしろにして先に進もうとしても、まったく意味がないのです。
それどころか、自分はレベルが高い問題に取り組んでいるという自己満足に陥り、基本がおろそかになって足元をすくわれます。
私は実際にそのような学生を、何人も見てきました。
仮に現状好成績を収めているとしても、決して油断をしてはいけません。
分不相応な勉強にとらわれてしまうと、これまで築き上げてきた好成績も、この先の栄光も、両方失ってしまいます。
とにかく身の丈に合ったレベルの問題を、繰り返し解いて、確実に身につけることが重要なのです。
人は6割から7割でその気になって、8割で満足するもの。
しかし、それでは必ず失敗してしまいます。
9割超えが必要不可欠なのです。
偏差値55周辺の学生は、この9割を、せいぜい6割5分しか覚えていないことが大半です。しかし医学部に一発合格するためには、何としても9割5分の理解が必要なのです。
7割や8割では医学部に合格することはできません。
ましてや6割5分では到底無理です。
成績を上げたいばかりに分不相応な問題に取り組み、逆に自らを窮地に追いやってしまう――これは現在好成績を収めている優等生ほど、陥りやすい落とし穴といえるでしょう。
好成績にあぐらをかけば、不合格必至
私が経営する予備校にかつて在籍した学生に、次のような人がいました。
成績はいつも上位。
授業で質問してもハキハキと回答し、周囲から「デキる人」と見なされている。
模試の結果も好調で、常に褒められる。
大学の合格判定でも良い判定を平然と取ってしまう。
当然、皆から憧憬の眼差しで見られている……。
ところが彼は、毎年一次試験には合格できるのですが、それ以上先に進めません。
模試の成績のみで判断すれば確実に合格圏内にいるはずなのに、決め手に欠けるのです。
その根本的な原因は、勉強に対する姿勢にあります。
彼は自分の勉強法をガンとして死守する頑固者だったのです。
基礎をおろそかにして、分不相応な難問に挑戦したがる傾向がありました。
その結果、模試の成績は常に良好なのですが、本番で今一歩実力を発揮することができず、ついには多浪生になってしまっているのでした。
教師のアドバイスを素直かつ謙虚に聞く耳を持たなければ、成長は見込めません。
あと少し得点できれば、合格通知が手に入るにもかかわらず、彼は一向に自分の勉強法を変えようとしませんでした。
その結果、毎年、平均偏差値62前後での不合格を繰り返してしまっていたのです。
医学部は、数多の学部の中で最難関といわれています。
現在好成績を収めているといって、絶対に油断をしてはなりません。
慢心は油断を生み、それが合格への道を閉ざしてしまうのです。
成績好調の人こそ、しっかりと肝に銘じる必要があります。